日ごろ多くの患者さんと接していると、「将来歩けなくなったらどうしよう」「寝たきりになったら困る」という不安の声をよく耳にします。超高齢社会を迎えた日本では、いかに生活の質(Quality of Life:QOL)を保ちながら長く元気に過ごすか、すなわち“健康寿命”への関心が高まっています。
国の調査では、介護が必要となる原因の第一位は「脳卒中」、第二位は「認知症」で、これに続くのが整形外科が関わる「関節の病気」と「骨折・転倒」です。
こうした背景から日本整形外科学会は2007年、骨や関節、筋肉の機能が衰え、歩行や日常生活に支障が出た状態を「ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)」と名づけました。
ロコモの背景には、骨粗鬆症、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症などの病気が潜んでいます。実際、これらの病気は50歳代から増えはじめ、70~80歳代になると骨粗鬆症による骨折が急増します。
誰もが元気で長生きしたいと願っています。骨や関節、筋肉の健康を保つことは、健康寿命を守るうえでとても大切です。

“骨の生活習慣病”と呼ばれる骨粗鬆症は、骨が減ってスカスカの状態になる病気です。骨が脆くなるため、骨折の危険性が高くなります。その原因には加齢やカルシウム不足、運動不足、喫煙などが挙げられ、女性では閉経後に女性ホルモンが減少することも主な要因の一つです。
健康な骨は、古い骨を壊す破骨細胞と新しい骨を作る骨芽細胞がバランスをとりながら新陳代謝をくり返しています。しかし、これらの原因によって破骨細胞の勢いが強まると、骨がどんどん減って骨粗鬆症が進行します。
初期の段階では自覚症状がほとんどありませんが、進むと腰や背中の痛み、背骨の変形がみられ、骨折するまで放置されてしまうこともあります。
診断には骨密度測定や血液検査、骨のレントゲン撮影などを行います。骨密度測定は腰椎と大腿骨頚部をDXA(デキサ)法で測定することが推奨され、正確な診断が可能です。血液検査では破骨細胞と骨芽細胞の状態がわかり、将来的に骨がどのくらい減るかを予測でき、治療薬の選択や効果判定にも役立ちます。
どれも負担の少ない検査ですので、骨の健康維持のために定期的に検査することをお勧めします。

ひざ関節には、体重を支える働きと脚を曲げ伸ばしする働きがあります。ほかの関節に比べて可動域が大きく、たとえば正座をすると、ひざは140度以上まで屈曲します。このような大きな動きを可能にしているのが、関節の表面を覆う「関節軟骨」です。関節軟骨はなめらかで弾力のある組織で、関節をスムーズに動かすために重要な役割を担っています。
しかし、この関節軟骨も加齢などの要因で擦り減ったり変性したりすることがあります。進行すると、ひざの骨そのものが変形し、この状態を「変形性膝関節症」と呼びます。代表的な症状として、歩きはじめや階段・坂道での痛み、しゃがみこみや正座が難しくなるなどの屈曲障害が挙げられます。また、関節に水がたまってひざが腫れることもあります。
治療には、保存療法と手術療法があります。保存療法では、ひざ周囲の筋力訓練や装具・固定帯を用いて関節を安定させ、ひざにかかる負担を軽減します。痛みがある場合には、消炎鎮痛剤の内服やヒアルロン酸の関節内注射を行います。さらに、ご自身の血液から血小板成分を抽出し、血小板が持つ「組織を治癒させる力」を活用する再生医療を行うこともあります。これらの保存療法で十分な効果が得られない場合に手術療法を検討します。

腰痛は「よくある症状」のように思われがちですが、その背景には多様な原因が潜んでいます。整形外科の病気が中心である一方、内臓や血管、泌尿器科・婦人科の病気が腰背部痛として現れることもあります。
■整形外科が原因の腰痛
体の使い方や加齢変化と関連し、動作や姿勢で痛みが変化しやすいことが特徴です。
①筋肉や靭帯の痛み
急な負担で起こるぎっくり腰、姿勢の偏りや疲労の蓄積による慢性腰痛症が代表的です。
動くと痛みが強くなり、安静で軽くなる傾向があります。
②骨の老化や骨折
すべり症、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症による圧迫骨折、スポーツで起こる分離症などが含まれます。
歩行時の痛みやしびれ、姿勢による症状の変化がみられます。
③椎間板が原因の痛み
椎間板の変性による脊椎症や、神経を圧迫する椎間板ヘルニアが該当します。
腰痛に加えて足のしびれや痛みが出ることがあります。
■他科の病気が原因となる腰背部痛
内臓の痛みが背中に響く、姿勢と関係なく痛むなど、整形外科とは異なる特徴があります。
①消化器の病気
• 胃・十二指腸潰瘍:みぞおちの痛みが背中に響くことがあります。
• 胆石・胆のう炎:右上腹部の痛みが背中に放散し、発熱や吐き気を伴うことがあります。
• 膵炎・膵臓腫瘍:みぞおちから背中に抜けるような持続する痛みが特徴です。
②泌尿器科の病気
• 尿路結石・腎結石:脇腹から腰にかけて突然強い痛みが走り、体勢を変えても楽になりません。
③婦人科の病気
• 子宮筋腫:下腹部の重だるさや腰痛として現れます。
• 卵巣嚢腫:下腹部の痛みが腰に広がり、嚢腫がねじれると急激な痛みが起こります。
④血管の病気
• 大動脈瘤:背中や腰に突然の強い痛みが起こることがあり、緊急性の高い病気です。
■まとめ
腰痛は一つの原因だけで説明できるものではなく、整形外科の病気から内臓疾患まで幅広い可能性があります。痛みの性質や経過、伴う症状によって必要な診療科が異なるため、「いつもと違う痛み」「強い痛み」「不安を感じる症状」がある場合は、早めにご相談ください。適切な診断と治療が安心と早期回復につながります。

痛みは単なる「刺激」ではなく、身体が危険を察知し自分を守るために働く大切な仕組みです。整形外科領域では、関節・筋・腱・神経といった運動器の損傷や炎症が引き金になります。組織が傷つくと炎症性物質が放出され、痛みを感じるセンサー(痛覚受容器)が敏感になります。この段階の痛みは「侵害受容性疼痛(ケガや炎症のときの痛み)」と呼ばれ、捻挫、骨折、変形性関節症などで典型的にみられます。
一方、神経そのものが障害されると「神経障害性疼痛(神経が圧迫されたり傷ついたりする独特な痛み)」が生じ、しびれや電気が走るような痛みが現れます。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が代表例です。
また、急性期の強い痛みが長引いたり、痛みが十分にコントロールされなかったりすると、脳や脊髄の痛み処理システムが過敏になり、軽い刺激でも強い痛みを感じる「中枢性感作」が起こることがあります。
痛みのメカニズムを理解することは、適切な薬の治療選択につながるだけでなく、患者さん自身が「なぜ痛むのか」を理解し、安心して治療に向き合うためにも重要です。
